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最適な「動線」とは①

最適な「動線」とは①

みなさんこんにちは。この暑い厳暑の季節、いかがお過ごしでしょうか。久留米市では今年も7月初旬に梅雨の豪雨によって、近年度重なる水害に加え、田主丸町の方では土砂災害にも見舞われてしまいました。被害に遭われた皆様に於かれましては、謹んでお見舞いを申し上げますと同時に、一日も早い災害からの復興と復旧を切に願ってやみません。

 

さて、本日は設計の中で良く使われる「動線」というキーワードについて少し考察してみたいと思います。

この「動線」という言葉は、お客様からの設計要望の中で頻繁に出て来るワードです。例えば、「効率的な家事動線」とか「使いやすい水廻り動線」とか「動線に配慮した間取り」とかいった感じです。そもそも「動線」とは家に住まれるお客様が暮らしやすいように企画・設計された、人が家の中を移動した時に、ある特定の空間・部屋・出入口等における配置の相互の関係性を表しており、何かと何かの部屋・スペースが近く、近接していると=使いやすくて良い動線、という解釈が普及しているのかな?と感じます。

適切な「動線」とは設計者それぞれの趣向性・判断による解釈と、お客様それぞれの個々人における間取りの優先順位や暮らし向きから来る「正解」があると思いますので、一概に何が正しくて、何が間違っている、と断じうるものではありませんが、何かと何かが近ければ動線上は正解でgood!!、という単純解は少し乱暴で違うような気もします。

 

そもそも「動線」さえ良ければ=良い家になる、というのも違う。良い家という定義もこれまた様々ありますが、住宅(家)が個々の家としての特徴・個性をそれぞれ差別化する、個々のアイデンティティを決定付ける要素は、「間取り(形)×色(カラー)×素材感(質感)」の3要素かと思います。

この3つのうち、どれか一つでも違えば全く異なった建物となりますし(例えば同じ間取り(形)のお部屋でも白い壁紙を貼った時と、黒っぽい壁紙を貼った時とでは、そのお部屋の雰囲気は全く異なりますし、同じ白でも光沢感のあるキラキラした白と、マットで全く光沢感の無い沈んだ白とではお部屋の雰囲気は異なる)そのそれぞれが適切に融合して絶妙なコンビネーションを発揮するからこそ最終的に、デザイン性に富んだ快適な住空間になるのでは、と感じます。

そして、「動線」は上記の3要素の中で「間取り(形)」を構成する中の1つの要素や考え方に過ぎません。ちなみに、「間取り」を構成する要素は沢山あるので、列挙すればキリがありませんが、例えば・・・「広さ」「用途」「高い・低い」「明るい・暗い」「設備・機器」「窓」「外観」「視線」とかいった具合でしょうか。そしてこの中に「動線」という要素が出て来ます。

また「動線」は上記のような形を構成する要素の中でも、取り分けて「機能」の部分にかなり特化した要素なので、ある「特定の人」が、住宅を「目的を持って」かつ「使用」する時に、「効率性」「機能性」「快適性」を確保する為に設計・配置計画上で取り入れられる考え方になります。そして先述のように、むやみやたらに何でも近ければ正解、という訳でもなく、遠い動線の方が正解というケースも多数見る事ができます。

 

例えば仮に・・・ご主人様のお友達が夜頻繁に家に遊びに来る生活環境の方とかでは、リビングとか、個人の部屋とか、客間とか、ある特定の、お友達が集まるお部屋と、お子様の寝室とか奥様が休む主寝室という空間は、なるべく遠くに配置されてた方が良いかと思います。楽しく盛り上がるご主人様とお友達の声が近すぎると、夜の安眠を妨げるかも知れず、また寝巻姿の奧様がご主人様の友達と遭遇する確率を下げる為には、あえて物理的に距離を離す事でそのリスクを軽減する事が可能となります。

同じように楽器の演奏が趣味の方であれば、リビングと楽器演奏の趣味室(楽器室)は遠い方が良い。昼間テレビを見る真横や隣の部屋で楽器を演奏されても、テレビを見ている他のご家族の方にとっては邪魔でしかなく、お互いに気を使い合わなければならず、結果、好きな時に趣味を楽しむ事も出来にくい状況が生まれ、何かとぎこちない住環境になります。

他にもLDKからトイレの配置が近いと、移動距離としては近くて便利で、普段家族で過ごす時は良いのですが、あまりに近すぎると特に奥様などはお客様が来訪した時などはトイレを使う事に少し引け目を感じるかも知れません・・・。玄関ホールにあるトイレなども同じように外部から訪問者が来た時は、家族は使いにくい感覚・心理状態に直面します。

こう考えると本来の適切な「動線」とは=「適切な距離」の事を言うのだと思います。近いものは近く。遠いものは意図的に遠く。中間地点にあるべきものは、双方から離れすぎずに、でも近すぎず。その適切なバランス、距離感、歩行距離の適切解が=良い動線なのだろうと思います。

それでは具体的に、設計上で良く使われる「動線」とはどのようなものがあるのか、動線の「形状」から見た代表例を挙げておきたいと思います。それは次の4つ。I型動線(ストレート動線)、L型動線、ロ型動線、放射状動線(一般的な呼称ではなく、個人的に勝手にそう呼んでいるだけなのでご了承下さい)が代表例かと思います。そしてそれぞれが、利点と欠点を有しているので、適材適所に、お客様のご要望に沿って適切な動線の解を選択する必要があります。下ではその特徴も併せて記載したいと思います。

 

【I型動線】

奥へ奥へ真っすぐ通り抜けて行くタイプの動線です。一番基本的な動線でもあります。この動線は真っすぐ突き抜けて歩いて行く動線なので、非常にシンプルな人の動きを誘発する動線です。欠点を上げるとすると、歩行距離がいくぶん長くなる所でしょうか。また動線と視線が真っすぐ同じ方向に向けて突き抜けるので、奧の部屋やスペースまで見通せてしまう。これが良い方向に働く事もあれば(プライベートな空間は遠くまで見渡せてOK)、玄関廻りなどで使用すれば、来客者から奥の部屋まで視覚的にも抜けてしまい、プライベートを侵される危険性もあります。

【L型動線】

これはI型動線とほぼ同じです。基本は真っすぐな動線でI型動線と機能的にはあまり差はありません。ただ前述のように、真っすぐな動線の方が配置上使いやすくプランを形成しやすいけれど、奥まで視線を誘導したくない(見られたくない)時などに使用し、動線上1箇所以上の箇所を90度に折り曲げて、物理的に視線をシャットアウトする時などに用いたりします。

【ロ型動線】

このパターンの動線は別称、回遊動線と呼びます。そしてこの動線=使いやすい動線の代表格によく上げられます。ある特定の部屋や機器・家具などを中心として、その周囲をぐるっと一周歩いて回れるのがこの動線配置の特徴です。例えばアイランドキッチンなどで、右側にも左側にもぐるっと回り込める、などのパターンが代表的な例でしょう。この動線のメリットは目的の位置までの移動距離を短縮出来る可能性がある事、移動方向に多様性がある事だと思います。I型やL形のように少し長めの距離を一方通行に歩いて行って戻って来るという動作を排除する分、行き止まりが無い回遊動線は、使い勝手や機能性を向上させる可能性を秘めています。逆にデメリットとしては回遊する通路部分を多数確保する必要があるので、廊下がいっぱい出来てしまい、結果的に建物の面積(ボリューム)が大きくなる事、逆を言うと建物の設計ボリュームが決まっている場合などでは、お部屋の面積を削る必要性が生じる場合などもあります。また、人の動きが一定方向ではないので、照明やスイッチなどの配置計画がしにくい事、行き止まりが欲しいプライベートゾーンでは動線配置として使用しにくい事などが挙げられるかと思います。

【放射状動線】

ある1箇所の立ち位置を基点として、放射状に動線が拡散する動線配置です。頻繁に使う動線計画ではありませんが、良くあるのがキッチン。奥様のご希望で、キッチンに立った時にキッチンから、ダイニングにも、リビングにも、パントリーにも、洗面にも、ランドリーにも、それぞれに直接近距離で移動してその部屋にアプローチしたい、といったご要望が上がった時などです。この時はキッチンから放射状に各部屋やスペースを隣接させて配置します。メリットとしては特定の箇所、上記の例で行くとキッチンからは最短距離で各部屋へ移動できる、というのがメリットですが、その他の部屋同士(ダイニング・リビング・パントリー・洗面・ランドリーなどの各部屋)はそれぞれの動線が寸断される傾向にあるので、かえって部屋同士の距離が離れたり、移動距離が長くなる事も想定されます。

 

上記以外にも動線形状はあると思いますが、キッチリ計画されているなぁ・・・と感じる建物プランや間取りは往々にして上記のような動線配置を駆使しており、また、どれか一つの動線形状だけを採用して完結している、という訳でも無く、様々な動線形状を適材適所にMIXして使用しているケースがほぼ大多数かと思います。住宅の使い勝手や機能性を高める上で「動線」はとても重要ですからご参考頂けると幸いです。

次の記事では引き続き、自分の家を設計して貰う時の「動線」のあり方、考え方についても考察したいと思います。