みなさん、こんにちは。前回の記事では「優秀な設計者にプランの作成を依頼」する事がとても重要だと書かせて頂きましたが、他にも大切な事があると感じる次第なので、もう少し「動線」というキーワードについて考えを述べて行きたいと思います。まずは結論から。ここでお伝えしたい大切な事とは「マイホームの設計要望(希望)を的確に設計者へ伝えられているか」という点です。
そもそも適切・最適な動線とは、「実際に住まわれる方にとって」適切か?という事がとても重要です。あるご家族様からすると「使い勝手が良い動線」でも、住まい手が変われば、趣向性や暮らし向きも変わる為、他のご家族様からすると「使い勝手の悪い動線」に変化してしまう事があります。それはご家族様ごとに、家族構成やご年齢、奧様の家事の仕方・方法、収納する物や量、ある特定のお部屋の有無などが当然のように変わる事によって生じる問題です。ですから設計者は、その家に住む「ご家族様(注文住宅の発注者様)に合わせて」最適な動線となっているのか?という事に細心の注意を払って建物のプランを検討します。
そこで設計者として、とても重要なのがお客様への「設計ヒアリング」。通常は設計に入る初期段階として、一番最初にお客様へ設計要望のヒアリングを行い、その後に建物プランを検討する事となります。そして、お客様からすると設計ヒアリングの際に①「的確に自分の希望を伝えたのか」②「要望に優先順位を付けたのか」この2つがどれだけ「設計者へ適切に伝わったか」という事がとても重要となります。
まず、「的確に自分の希望を伝えたのか」についての重要性。
これはある一種、要望を伝えた時に「ニュアンスの取り違え」が生じていないか、という事についての問題です。
例えば仮に・・・あなた自身が設計者となって、お客様へ設計要望のヒアリングを実施している場面を仮定で想像してみて下さい。ヒアリングの打合せの中で、お客様からこんなご要望を頂きます。「洗面所と脱衣所は別室にして下さい」・・・あなたはそのご要望について、設計者としてどう感じ、どう考えますか?
通常は「洗面所と脱衣所は別室にして欲しい」というお客様のご希望を頂戴した際は、そのご要望をプランの中に100%反映させないといけない、と感じると思いますし、「はい、分かりました」とお客様へ、そのご要望を承った旨をお答えするかと思います。
しかし仮に、「それは何故ですか?」とお客様へ質問を投げ返してみたと仮定します。すると・・・次のようなお答えが返って来ます。
A:「絶対に」「洗面所と脱衣所は別室に」「したいんです」
B:「可能なら」「洗面所と脱衣所は別室に」「出来ればと考えています」
C:「迷い中だけど」「洗面所と脱衣所は別室に」「しても良いかなと思っています」
D:「好きではないけど」「洗面所と脱衣所は別室に」「した方が良いとネット記事で読みました」
という上記の4パターンの回答でした・・・あなたはそのご要望について、設計者としてどう感じ、どう考えますか?
私であれば・・・
A:「絶対に」との事であれば100%優先的ご希望であり「必須事項」と考えます。
B:「可能なら」であれば70~80%ぐらいのご希望?「極力叶えよう」と思います。
C:「迷い中だけど」なら50%程度だろうか・・・「優先度はそう高くないのかな?別の選択肢もありえるか?」と感じます。
D:「好きではないけど」なら0~20%?「そもそも好きではないのであれば、やめておいた方が良いのでは?・・・他にもっと良いレイアウトや選択肢があるはずでは?」と考えてしまいます。
皆さんはどう思われますか? ここで言いたいのは、「洗面所と脱衣所は別室にして下さい」というお客様のご要望に対して、お客様の中にある「本当の真意」を明確に共有出来ていなければ、設計者として判断を誤る可能性は相当高い、という事実についてです。最初はプランの中に100%反映を、と感じたとしても、上記のCやDの方のような真意をお聞きした瞬間に、100%が→50%に変化する事も、100%が→0~20%に変化して、設計者としてそのご要望を「却下」する事も十分ありえます。そして、そもそものお話ですが、仮に「それは何故ですか?」と聞き返さなかったとしたら・・・はたまたお客様が、そのご要望のニュアンス(真意)をお話頂けなかったら・・・最初の「洗面所と脱衣所は別室にして下さい」というお言葉だけを信じて=100%!! という誤った判断に基づいて建物プランの設計を進めて行く事になったでしょう・・・。
そして設計者にご要望が曖昧な伝わり方をしてプラン設計が進んだ場合、「あまり好きでない」はずの「洗面所と脱衣所が別室の」マイホームプランが至極当然のように提示され、お客様は「このプラン・・・あまり好きではないなぁ・・・」という感覚に陥ると思いますし、設計者へ「洗面所と脱衣室が分かれてるのが気になるので・・・この箇所のプラン修正をお願い出来ますか?」と伝えると、設計者側からすると「え・・・?何故に???・・・ご要望の通りに設計していますけど・・・?」と感じられてしまう為、お互いに「この人・・・大丈夫か?」と疑心暗鬼に陥る事も十分あり得る事です。このように「ニュアンスの取り違え」が起こればは、下手をすればお客様と設計者双方にとって悲劇を生じさせる原因となります。
設計者は、お客様のご要望内容と、その微細なニュアンスによって、判断基準や価値基準を180度変えるので、「ご要望」+「何故そうしたいのか」「その理由は」という明確、そして的確なご希望を設計者へ確実に伝達する、という点を心掛けて頂くのは大変良い事かと思います。(優秀な設計者ほど、ヒアリングを大切にする傾向が強いので、設計者側も勘違いなどが無いように十分な注意を払うとは思いますが)
さらに「要望に優先順位を付けたのか」という事も重要です。
通常のお客様で、設計要望は1項目しかない、というお客様はほぼ居られないと思います。少なくとも10~20、多い方だと100項目ぐらいのご要望を頂戴したりするケースもあります。
そんな中で設計者は、100項目のご要望を頂戴すれば、その100項目のご要望全てに対して優先順位を確認し、順位の高いものから最優先的にプランに反映させて行くという作業を設計の中で行います。ここで大事な事が次の2点。1)優先順位が勘違いで伝わっていないか、2)ご要望同士がケンカしていないか、という事です。
もし仮にご要望の「優先順位の勘違い」を起こした場合。お客様にとって優先順位の低いご要望ばかりが優先してプランに反映されてしてしまうと、プラン提案を受けた際に、お客様は・・・何コレ?私達の要望があまり反映されていないケド??どうなっているの??という「何コレ?プラン」にしか感じられないと思います。この状態では「動線」が良いとか、悪いとかより、全然それ以前の問題です。でもこの状態はお客様にも多少の責任があるかも知れません・・・。(的確に確認していない設計者にも、かなり重い責任がありますが)
それぞれのご要望ごとに優先順位を付ける行為や、ご要望に優劣を下す判断は、そもそも、設計者自身で最終判断する事は絶対に不可能です。何故ならそのご要望自体は、「お客様ご自身」がご希望されてある事であり、設計者自らが希望した訳では全然無いですし、その要望の価値の優劣はあくまで「要望した人」にしか比較が出来ないからです。ですから、ご自身の「ご要望ごとの優先順位を的確に設計者へ伝える」という事をお客様ご自身も重要事項として心掛けて頂きたいのです。
仮にご要望ひとつひとつが「不明瞭な内容」で「優先順位が間違って」設計者へ伝われば、設計者はその瞬間から、適切な判断基準を完全に見失ってしまう事に直結します。これは雲の中を飛んで飛行する飛行機のようなものです。「カッコ良い」「使い勝手の良い」「住みやすい動線の」「お客様に喜んで頂ける住宅を設計」するという、飛んで行くべき「目的地」だけはハッキリと分かっていますが、如何せん目のに広がるのは、白いふわふわとした前が見通せない雲の中。そもそもどの方向に向かって飛べば良いのか、十分な経験を積んだ優秀なベテランパイロットでも、そう容易に判断はつきません。そこで飛んで行くべき方向を唯一指し示し、どう操縦するかの判断基準となってくれるのが「お客様の的確なご要望」であったり「ご要望の優先順位の明確な伝達」という存在です。これは飛行機の操縦席にある計器類みたいなもので、優秀なパイロットは計器が差し示す的確な方角や数値だけを頼りに、自分が飛ぶべき方向を見出し、目の前が全く見えなくても卓越した操縦で目的地に辿り着く事が出来ます。しかしこの計器類が狂っており、完全に間違った情報・方向を指し示せば、いくら優秀なパイロット(設計者)でも、間違った判断しか下せない結果になります。そして最後には、とんでもない方向へ向かって飛行し、そもそも行きたかった目的地に辿り着く事は絶対にあり得ません。・・・この飛行機のパイロットの例えは、設計者の方であれば、なるほど!!間違い無い!!と、感覚的に深く共感頂けるものと思います(笑)
そう、正に悪天候の中、安全な空の旅を演出するのは卓越した能力と経験・知識を有した優秀なパイロット(設計者)の仕事ですが、どの空港(目的地)に向かって飛行するべきなのかは、その飛行機の客席に座る、建て主様、あなたご自身の中にしか答えは無いのです。ですから、設計の要望の優先順位を丹念に見直してヒアリングの打合せの前に、本当の意味でのご要望の優劣を決定して頂く(目的地を選定頂く)、という事は正に重要です。優劣の判断内容が的確では無い場合、上述のように、目的地とは違うあさっての方角に向かって飛行した結果、何コレ?プランが提示される事に確実になるでしょう。 Continue reading →